手続き ・ アメリカの看護師の就職

アメリカの看護師の求人で、規則が決めているのは時給の下限までです。何年働くかと違約金は、契約書が決めています

アメリカで看護師として働くには、アメリカの雇い主に、永住権の申請書(I-140)を出してもらわなければなりません。その雇い主を探す段で、多くの人が「エージェント」と契約します。ただしこの言葉は、立場のまったく違う3種類の会社をまとめて呼んでいて、契約書のどこを読むべきかは相手がどれかで変わります。この記事では、規則が決めていること(時給の下限・雇い主の責任)と、契約にまかされていること(働く年数・違約金・手数料)を分けて、連邦規則・米国の役所の手引き・州法・裁判所の判断と、日本の職業安定法の原文で確かめます。

この記事の読み方 規則・数字・判決は2026年9月25日に、米国市民権・移民局(USCIS)の政策マニュアル、連邦規則(20 CFR 656・8 CFR 204.5)、国務省の領事業務マニュアル(9 FAM)、労働省(DOL)の標準賃金データ、州議会の法律の原文、連邦裁判所の判決、日本の職業安定法と厚生労働省の指針で確認しました。特定の会社の評価やおすすめはしません。また、契約書の個別の判断は弁護士の仕事です。ここに書くのは、どの会社と契約するにしても共通して効いてくる規則の線だけです。円は同じ日の1ドル158.7円で換算しました。出典は最後に並べています。

1. 「エージェント」は3種類——見分ける質問は「I-140を出すのは誰か」

アメリカの看護師の求人で「エージェント」と呼ばれるものには、少なくとも次の3つがあります。

  1. 病院に直接雇われる
    雇い主は病院。I-140を出すのも、給料を払うのも病院です
  2. 紹介会社が病院につなぐ
    雇い主は紹介先の病院。紹介会社は雇い主ではないので、I-140を出すのは病院です
  3. 人材会社に雇われ、病院へ派遣される(スタッフィング)
    雇い主は人材会社。I-140を出すのも給料を払うのも人材会社で、実際に働く病院は人材会社の「取引先」です

見た目はどれも「エージェントが病院を紹介してくれる」ですが、法律の上の雇い主がまるで違います。そして永住権の手続きで責任を負うのは、その雇い主です。連邦規則(8 CFR 204.5(c))は、EB-3のI-140を出せるのは「外国人を雇う意思のあるアメリカの雇い主」だと定めています。USCISの政策マニュアルも、実際の雇い主としてフルタイムで期限のない雇用を提示できない者は、申請できないと書いています。人材会社が雇い主になる形は認められていて、マニュアルは、勤務先が何か所にもなる雇い主の例として人材会社の名前を出しています。

だから最初に確かめる質問は1つです。「I-140を出すのは、どの会社ですか」。答えが契約書の相手と同じ会社なら3の形、病院の名前なら1か2の形です。

雇い主が負う責任は、永住権が出るまで続きます I-140を出した雇い主は、提示した給料を払える力があることを、優先日(I-140が受理された日)から永住権が出るまでずっと示さなければなりません(8 CFR 204.5(g)(2))。仕事はフルタイムで期限のない雇用でなければならず(20 CFR 656.10(c)(10))、個人事業主として請け負う形の仕事では申請できません(20 CFR 656.3)。人材会社の場合、USCISは、勤務先がわからず既存の取引先もないなら「本物の求人がない」として却下しうると書いています。

2. 時給の下限——規則が決めていて、自分で調べられます

エージェントの契約でいちばん目に入るのは時給です。ここには、規則が引いた下限があります。

雇い主は申請のときに、提示する賃金がその地域の「標準賃金(prevailing wage)」以上で、働き始めるときに払う賃金もその時点の標準賃金以上であることを約束します(20 CFR 656.10(c)(1))。標準賃金は、雇い主の申請を受けて労働省が案件ごとに決めます。もう1つ、歩合やボーナスで下限を満たすことはできません。週・隔週・月ごとに保証された賃金で、標準賃金以上を払う必要があります(同(c)(2))。サインオン・ボーナスが大きく見えても、下限の計算には入らないということです。

「どの地域の」標準賃金かも決まっています。USCISの政策マニュアルによると、人材会社のように勤務先が複数ある雇い主は、配属先がわかっていればその勤務先の地域、わからなければ本社のある地域の標準賃金を使います。

標準賃金のもとになる数字は公開されています。労働省が2026年7月1日から2027年6月30日まで使う賃金表(BLSの2025年5月の調査にもとづく)で、登録看護師(SOC 29-1141)の時給は、4つの大都市圏でこうなっています。レベルIからIVは、仕事が求める経験や技能の重さに応じた4段階です。

年額は、労働省と同じく時給×2,080時間で出しています。ニューヨーク都市圏には、ニューヨーク市の5区とロングアイランド(ナッソー・サフォーク)、ウェストチェスターなど周りの郡、ニュージャージー州の北部が入ります。同じ仕事でも、ロサンゼルスとヒューストンではレベルIで時給が$13以上違います。求人の時給は、どの地域の話かとセットで見る必要があります。

この表の読み方で気をつけること どのレベルが当てはまるかは、労働省の担当部署が案件ごとに決めます。「下限はいつもレベルI」とは限りません。また、大学や大学と提携した病院には、別の低めの賃金表(ACWIA)が使われます(ニューヨーク都市圏のレベルIは$41.20)。さらに労働省は2026年3月27日に、4段階の計算方法を変える規則案を出しています。9月25日の時点で最終の規則は出ていませんが、決まればこの数字は変わります。

自分で調べるには、労働省の flag.dol.gov の「Wage Search」を開き、職種に「Registered Nurses(29-1141)」、地域に働く場所を選びます。

そしてもう1つ、雇い主は求人の告知を職場に貼り出さなければなりません。告知はI-140を出す30〜180日前に、10営業日つづけて、従業員の目に入る場所に掲示します(20 CFR 656.10(d))。Schedule A の告知には仕事の内容と賃金を書くことになっていて(同(d)(6))、USCISは「賃金は掲示の時点の標準賃金以上、幅で書くなら最低額が標準賃金以上」と書いています。人材会社なら、同じ職種の人が配属されているすべての取引先に掲示します。自分の賃金は、そこに一度書かれている数字です。

3. お金——アメリカの規則と、日本の職業安定法

エージェントに払うお金については、アメリカの規則と日本の法律が別々に線を引いています。

アメリカの規則が禁じているのは、雇い主が労働証明を得るための費用——雇い主側の弁護士費用を含む——を本人から受け取ることです(20 CFR 656.12(b))。給料からの天引きや減額も「受け取る」に入ります(詳しくは永住権の記事の8節)。一方で国務省の領事業務マニュアルは、本人が紹介会社などに料金を払ってアメリカの雇い主の仕事を得ることは、労働証明の費用を払うのでなければ認められると書いています(9 FAM 502.4-4)。アメリカの移民手続きの上では、紹介料は禁止されていません。

ところが日本の法律は違います。

許可を受けた会社には「01-ユ-000001」の形の許可番号があり、厚生労働省の人材サービス総合サイトで、会社名や許可番号から検索できます。紹介会社は、求められたら許可証を見せなければなりません(同32条の4)。

日本の法律が届かない相手もいます 日本に拠点を置かず、アメリカから直接やりとりする会社に日本の職業紹介の許可が要るかどうかは、紹介の行為の一部が日本で行われるかで決まります。また、NCLEXの講座や書類の代行を「紹介」とは別の商品として売る場合、それが紹介の手数料に当たるかどうかは、法律の条文からは読み取れません。何に対して、いつ、いくら払うのかは、契約書で1行ずつ確かめるしかありません。

4. 何年働くか——年数を決めているのは、規則ではなく契約です

エージェントの契約には、ふつう「〇年間はこの雇い主のもとで働く」という期間があります。この年数は、どこから来ているのでしょうか。

規則が求めているのは、入国するときに、その仕事に就くつもりであることです。国務省の領事業務マニュアル(9 FAM 302.1-5)は、雇用の申し出にもとづいて移民ビザを受ける人は申請書に書かれた仕事へただちに向かわなければならないとし、「到着後すみやかに、その雇い主のもとで、その仕事を始めるつもりです」という趣旨の声明に署名させるよう領事に指示しています。その仕事に行けない人、行く気のない人は、ビザを受けられません。

一方で、「何年働かなければならない」という年数は、今回確認した連邦規則・USCISの政策マニュアル・国務省のマニュアルのどこにも書かれていませんでした。2年や3年という数字は、契約書が決めている数字です。

なお、永住権の手続き中に雇い主を替えられる「ポータビリティ」という規定がありますが(移民国籍法204条(j))、これはアメリカ国内で身分を切り替える申請(I-485)を180日以上待っている人のためのものです。日本の大使館で移民ビザを受けて入国する人には、この規定は当てはまりません。

5. 違約金——州法と裁判所が線を引きはじめています

エージェントの契約には、決めた期間より前に辞めたら一定の額を払う、という条項が入っていることがあります。英語の契約書では liquidated damages(損害賠償額の予定)や breach fee、promissory note(約束手形)と書かれます。この条項について、ここ数年でアメリカの裁判所と州議会がはっきりした判断を出しはじめています。

裁判所の判断——どちらもニューヨーク東部地区の連邦地裁で、フィリピンから来た看護師たちが、雇い主の人材会社を訴えた事件です。

TVPA(18 U.S.C. 1589)は、「深刻な損害」に経済的な損害が含まれると明記していて、被害を受けた人は民事で損害賠償と弁護士費用を求められます(同1595条)。また、強制労働に関連して他人のパスポートを取り上げる・預かることは、それ自体が犯罪です(同1592条)。

州の法律も動いています。

「違約金はどれも無効」ではありません 2つの判決は、それぞれの契約の中身を見て出されたものです。州法には施行日と例外があり、どこで結んだ・どこで働く契約に及ぶかも州ごとに違います。言えるのは、違約金の額が何の損害に対応しているのか、どの州の法律で読む契約なのかを、サインする前に確かめる価値がある、ということまでです。個別の判断は、アメリカの労働・移民の弁護士に相談してください。

6. 経験年数とNCLEX——エージェントが代われないもの

「経験は何年必要ですか」という質問への答えも、規則と契約で分かれます。看護師が Schedule A で申請する条件(20 CFR 656.5)は、働く予定の州の正式な看護師免許、TruMeritの証明書、NCLEX-RN合格のうち1つで、ここに経験年数は入っていません。経験を何年求めるかは、雇い主が決める採用の条件です。だから、エージェントや病院によって答えが違います。

逆に、どのエージェントと組んでも本人にしかできないことがあります。学歴審査の申請、NCLEXの受験、州の免許の申請、VisaScreen——どれも本人の名前で出す手続きで、エージェントが持っているのは書類の段取りまでです。そしてNCLEXの合格で申請するなら、I-140を出せるのは合格した後です。優先日はI-140が受理された日なので、合格が遅れれば永住権の列に並ぶ日もそのまま遅れます。6つの手続きの順番と費用は、アメリカで看護師になるにはで1段ずつ並べています。

まとめ

  1. 「エージェント」には、病院の直接雇用・病院への紹介・人材会社による雇用と派遣の3つがある。見分ける質問は「I-140を出すのは誰か」
  2. I-140を出した雇い主は、フルタイムで期限のない雇用を提示し、永住権が出るまで給料を払える力を示しつづける
  3. 時給には標準賃金という下限がある。ボーナスでは満たせない。2026〜27年の表で、ニューヨーク都市圏のRNはレベルI $44.31
  4. 標準賃金は労働省の Wage Search で自分で調べられる。どのレベルかは案件ごとに決まる
  5. アメリカの規則は、労働証明の費用を本人から取ることを禁じるが、紹介料そのものは禁じていない。日本の許可を受けた紹介会社は、看護師から手数料を取れない
  6. 働く年数は規則ではなく契約が決めている。規則が求めるのは、入国時にその仕事に就くつもりであること
  7. 辞めたら払う違約金について、ニューヨークの連邦地裁は2019年と2023年に無効・強制労働にあたると判断した。カリフォルニア州は2026年から禁止、ニューヨーク州も施行を待つ段階
  8. 経験年数は雇い主の採用条件。NCLEXの合格は、どのエージェントも代われない

よくある質問

アメリカで看護師として就職するのに、エージェントは必要ですか?

規則が求めているのはエージェントではなく、永住権の申請書(I-140)を出すアメリカの雇い主です。EB-3のI-140は雇い主にしか出せません(8 CFR 204.5(c))。雇い主は病院のことも、看護師を雇って病院に派遣する人材会社のこともあります。学歴審査、NCLEXの受験、州の免許の申請、VisaScreen はどれも本人の名前で出す手続きで、エージェントを使うかどうかにかかわらず本人がします。エージェントと契約するなら、最初に「I-140を出すのはどの会社か」を確かめると、相手が雇い主なのか紹介だけなのかがわかります。

アメリカの看護師の求人で、時給の下限はいくらですか?

永住権を申請する求人では、雇い主はその地域の標準賃金(prevailing wage)以上を払うと約束します(20 CFR 656.10(c)(1))。労働省が2026年7月から2027年6月まで使う賃金表で、登録看護師のレベルIの時給はニューヨーク都市圏 $44.31、ロサンゼルス都市圏 $49.61、ヒューストン都市圏 $36.13、シカゴ都市圏 $36.40 です。どのレベルが当てはまるかは労働省が案件ごとに決め、ボーナスで下限を満たすことはできません。数字は労働省の flag.dol.gov の Wage Search で自分で調べられます。

エージェントとの契約で、途中で辞めたら違約金を払わなければなりませんか?

契約の中身と、その契約に適用される州の法律によります。ニューヨーク東部地区の連邦地裁は、フィリピンから来た看護師の3年契約にあった $25,000 の違約金(2019年)と、1時間 $15 で最大 $60,000 になる違約金(2023年)を、どちらも無効な違約罰で、連邦法(TVPA)が禁じる強制労働にあたると判断しました。カリフォルニア州は2026年1月1日以降の雇用契約で、辞めたときに移民・ビザの費用などを払わせる条項を違法にし、ニューヨーク州でも同じ種類の禁止が成立から1年後に施行されます。個別の契約は、アメリカの弁護士に確かめてください。

出典(2026年9月25日確認) EB-3のI-140を出せるのは米国の雇い主・給料を払える力を永住権まで示す:8 CFR 204.5(c)(g)(2)(ecfr.gov)
標準賃金以上の約束・歩合や賞与では満たせない・フルタイムで期限のない雇用・告知(10営業日・30〜180日前・Schedule A は賃金を書く):20 CFR 656.10(c)(d)
個人事業主として請け負う形には出ない:20 CFR 656.3
Schedule A の3つの条件:20 CFR 656.5
標準賃金の決め方・大学と関連病院の別の賃金:20 CFR 656.40
労働証明の費用を本人に払わせてはならない:20 CFR 656.12(b)
実際の雇い主でなければ申請できない・人材会社の賃金の地域・すべての取引先への掲示・掲示する賃金は標準賃金以上:USCIS Policy Manual, Volume 6, Part E, Chapter 7(2026年9月23日時点)
2026〜27年の賃金表(SOC 29-1141・レベルI〜IV・年額は2,080時間):労働省 OFLC Wage Data Downloads, 2026-2027 Wage Files(flag.dol.gov)
レベルの計算を変える規則案:Federal Register 2026-06017(2026年3月27日)
紹介会社などへの支払いが認められる条件:国務省 9 FAM 502.4-4
申請書の仕事へただちに向かうこと・署名する声明:国務省 9 FAM 302.1-5
雇い主を替えられるのは米国内の切り替え(I-485が180日以上):INA 204(j)(8 U.S.C. 1154(j))、8 CFR 245.25
$25,000の違約金は無効・TVPA違反:Paguirigan v. Prompt Nursing Employment Agency, No. 17-cv-1302 (E.D.N.Y. Sept. 24, 2019)、控訴審 No. 19-3494 (2d Cir. Sept. 22, 2020)
1時間$15・6,000時間の違約金は無効・TVPA上の責任:Magtoles v. United Staffing Registry, No. 21-cv-1850 (E.D.N.Y. Mar. 30, 2023)
経済的な損害・民事の請求・パスポートの取り上げ:18 U.S.C. 1589, 1595, 1592
カリフォルニア州:AB 692(2025年法律第703号・Business and Professions Code 16608、Labor Code 926)
ニューヨーク州:Trapped at Work Act(A.584-C/S.4070-B・2025年法律第643号、2026年法律第16号で改正)
コネチカット州:Public Act 26-12 §4(C.G.S. 31-51r)
許可制・求職者からの手数料の禁止・許可証の提示:職業安定法30条・32条の3・32条の4(e-Gov法令検索)
手数料の例外(芸能家・モデル・年収700万円超の経営管理者等):職業安定法施行規則20条、平成14年厚生労働省告示第26号
国外にわたる職業紹介への適用・許可番号の確認:厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」
渡航費の貸付・保証金や違約金を定める取次機関の禁止:平成11年労働省告示第141号 第六の十
為替 1ドル=158.7円:2026年9月25日 00:02 UTC 時点のレート(exchangerate-api)

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