NCLEXの呼吸器は、空気か酸素かで見る数字が変わる
呼吸器の問題が解きにくいのは、疾患が多いからではありません。数字が良く見えるほうが危ない場面があるからです。SpO₂ 95% を見て安心すると外れる問題があり、喘鳴が消えたのを「効いてきた」と読むと外れる問題があります。分かれ目は1つ——いま壊れているのが空気が入っていないほうなのか、酸素が渡っていないほうなのか。この記事ではその見分け方を1本決めてから、実際にNCLEX BANKに収録している問題を3問解きます。英語の用語にはすべて日本語をつけます。
1. 肺の仕事は、2つある
肺がやっていることは、分けると2つだけです。空気を出し入れすることと、その空気から酸素を血に渡すこと。前者をventilation(換気)、後者をgas exchange(ガス交換)と呼びます。
NCLEXの呼吸器の問題は、このどちらが壊れているかを聞いています。そして壊れている側によって、見るべき数字が入れ替わります。ここが日本の実習で身につく感覚といちばんずれるところです。日本語で「呼吸状態」と言うとき、私たちはたいてい SpO₂ を見ています。ところが換気が壊れている患者では、SpO₂ は最後まで下がりません。
① 入っていない話(ventilation(換気)の障害)
空気が出入りできない。喘息、COPD、窒息、気胸。見るのは二酸化炭素——出せないから溜まります。酸素はしばらく持ちこたえるので、SpO₂ は遅れて動きます。
② 渡っていない話(gas exchange(ガス交換)の障害)
空気は入っているが、酸素が血に乗らない。肺炎、肺水腫、肺塞栓、一酸化炭素中毒。見るのは酸素——ただし一酸化炭素だけは、SpO₂ が嘘をつきます。
そして、どちらでも意識の変化がいちばん早く出ます。「落ち着かない」「そわそわしている」は、呼吸器の設問では背景描写ではなく所見です。
覚えておく数字は3つだけです。pH 7.35〜7.45、PaO₂ 80〜100 mm Hg、PaCO₂ 35〜45 mm Hg。この3つで、いま起きているのがどちらの話かがほぼ決まります。
| 入っていない(換気の障害) | 渡っていない(ガス交換の障害) | |
|---|---|---|
| いる場面 | 喘息発作、COPD増悪、窒息、気胸、呼吸筋疲労 | 肺炎、肺水腫、肺塞栓、一酸化炭素中毒 |
| 先に動く数字 | PaCO₂ が上がる 出せないので溜まる。pHは下がる |
PaO₂ が下がる 渡せないので届かない |
| SpO₂ の信頼度 | 遅れる 下がった時にはもう進んでいる |
おおむね使える。一酸化炭素中毒だけ例外 偽性に正常を示す |
| 最初の一手 | 空気の通り道を開ける 気管支拡張薬、坐位、吸引、胸腔ドレーン |
酸素を渡す 酸素投与、体位、原因の治療 |
| 危険サイン | 音が消える・呼吸数が落ち着く 改善ではなく、疲れ切った合図 |
意識の変化 数値より先に出ることがある |
2. 例題① 数字が正常に近づいたら、悪くなっている
1問目は入っていない側です。急性の喘息発作で、状態が急速に悪化しています。選択肢には血液ガスの値が並びますが、「正常から外れているほうを選ぶ」では解けません。
The nurse is assessing a client with an acute asthma exacerbation whose respiratory status is rapidly deteriorating. Refer to the exhibit below. Which of the following findings would support a diagnosis of impending respiratory failure? Select all that apply.
急性喘息発作で呼吸状態が急速に悪化している患者をアセスメントしている。切迫した呼吸不全を支持する所見はどれか。あてはまるものをすべて選べ。
基準値:pH 7.35〜7.45 / PaO₂ 80〜100 mm Hg / PaCO₂ 35〜45 mm Hg
- arterial pH 7.48動脈血 pH 7.48
- paradoxical chest and abdominal movement胸部と腹部の奇異性運動
- PaO₂ 55 mm Hg (7.3 kPa)PaO₂ 55 mm Hg
- PaCO₂ 52 mm Hg (6.9 kPa)PaCO₂ 52 mm Hg
- increasing restlessness and lethargy落ち着きのなさの増強と傾眠
正解:2・3・4・5
外れるのは1つだけです。pH 7.48 は「アルカローシス」で、方向が逆——切迫した呼吸不全なら respiratory acidosis(呼吸性アシドーシス)、つまりpHは下がります。
ここが喘息のいちばん危ないところです。発作の初めは、pHが上がるほうが普通です。苦しいので速く浅く吐き続け、CO₂ が抜けすぎるからです。ところが疲れてくると、その速い呼吸が続けられなくなります。呼吸数が落ち着き、PaCO₂ が 35 に近づき、やがて 45 を超えて 52 になる。数字が正常に近づいていく過程が、そのまま悪化の過程です。
4の PaCO₂ 52 は「出せなくなった」証拠、3の PaO₂ 55 は 60 以下で hypoxemia(低酸素血症)、2の paradoxical breathing(奇異呼吸=吸うときに胸がへこむ)は横隔膜が疲れ切った合図、5の落ち着きのなさと傾眠は低酸素の鋭敏な指標です。4つとも「もう間に合わなくなってきた」を別の角度から言っています。
ここがポイント:silent chest(無音胸郭)も同じ話です。喘鳴は、空気が動いている音。消えたのは気管支が開いたからではなく、鳴らせるだけの空気が動かなくなったからです。「静かになった喘息」は、良くなった喘息ではありません。
出典:NCLEX BANK / 成人看護 🫁 Respiratory #2 Q14
・喘鳴が消える(silent chest)——音が出せるだけの空気が動いていない
・呼吸数が正常に戻る——疲れて速く吐けなくなった
・PaCO₂ が正常域に上がってくる——喘息発作中の「正常な PaCO₂」は正常ではない
・一語ずつしか話せない(single-word dyspnea)
・座って前かがみのまま動かない、眠そうになる
逆に、ゼーゼーと大きな音を立てて長く話せる患者のほうが、状態としては軽い。ここが日本語の直感と反対に働きます。
3. 例題② SpO₂ 95%で、100%の酸素を流す
2問目は渡っていない側です。しかも、渡っていないことを SpO₂ が教えてくれない唯一の型が出てきます。家屋火災のあとの救急外来です。
In the emergency department, the nurse is caring for a client with carbon monoxide poisoning after a house fire whose pulse oximetry reads 95% on room air. Which of the following actions should the nurse take?
救急外来で、家屋火災後の一酸化炭素中毒の患者を担当している。室内気でパルスオキシメトリーは 95% を示している。看護師が行うべき行動はどれか。
- Administer nebulized albuterol.ネブライザーでアルブテロールを投与する
- Provide 100% oxygen at 15 L/min via a nonrebreather mask.非再呼吸マスクで 100% 酸素を 15 L/分で投与する
- Administer IV methylprednisolone.メチルプレドニゾロンを静脈内投与する
- Titrate oxygen to maintain a pulse oximetry reading greater than 95%.パルスオキシメトリーが 95% を超えるように酸素を調整する
正解:2
SpO₂ 95% は、この患者では読んではいけない数字です。
パルスオキシメーターは、ヘモグロビンに何かが結合していることは分かりますが、それが酸素か一酸化炭素かを見分けません。CO(一酸化炭素)は酸素の約200倍の強さでヘモグロビンに結合し、酸素を押しのけて carboxyhemoglobin(カルボキシヘモグロビン)になります。器械はそれを「酸素が付いている」と読みます。血は真っ赤で、数字は正常で、組織には酸素が届いていません。
だから数字を待たずに 100% 酸素です。高流量で流すほど CO がヘモグロビンから外れ、体から抜けていきます。
4がいちばんよくできた誤答です。「酸素を投与する」という方向は合っていますが、目標を SpO₂ に置いた瞬間に間違いになります——すでに 95% あるので、この指示に従うと酸素はほとんど流れません。1のアルブテロールは気管支攣縮があれば使いますが、ここにその所見はなく、CO は追い出せません。3のステロイドは喘息や COPD の炎症に使う薬で、この病態には適応がありません。
ここがポイント:NCLEXは「正しい行為」ではなく「何を指標にして決めたか」を見ています。同じ酸素投与でも、数字に合わせて絞るか、病態を見て流し切るかで正誤が入れ替わります。
出典:NCLEX BANK / 成人看護 🫁 Respiratory #2 Q18
・末梢が冷たい、血圧が低い、循環が悪い——指先に脈が届かず値が拾えない
・濃いマニキュア、人工爪——光が通らない
・体動、ふるえ——波形が乱れる
・重度の貧血——ヘモグロビン自体が少ないので、飽和度が100%でも運べる酸素量は足りない
共通しているのは、「飽和度」は割合であって量ではないということです。何%が埋まっているかは分かっても、埋めるものが何個あるか、中身が本当に酸素かまでは分かりません。
4. 例題③ 悪いほうの肺を、上にする
3問目も渡っていない側ですが、今度は薬ではなく体位で解きます。右下葉の肺炎です。
A nurse cares for a client with right lower lobe pneumonia. In which position should the nurse place the client to improve oxygenation?
右下葉肺炎の患者を担当している。酸素化を改善するために、看護師はどの体位をとらせるべきか。
- Trendelenburg頭低位(トレンデレンブルグ位)
- supine仰臥位
- right lateral右側臥位
- left lateral左側臥位
正解:4
理由は重力です。下にした側の肺に、血が多く集まります。
右下葉が肺炎で埋まっているということは、右肺は空気を渡せないということです。そこに血を余計に送っても、酸素を受け取れないまま心臓へ戻るだけ——これを shunt(シャント)と呼び、酸素化はかえって悪くなります。
だから健康なほうの左肺を下にします。英語ではそのまま good lung down(良いほうの肺を下に)。換気できている肺に血を集めることで、V/Q matching(換気血流比)が良くなります。
3の右側臥位はこれの正反対で、患側に血を集めます。1の頭低位は横隔膜の動きを妨げて呼吸仕事量を増やし、2の仰臥位は背中側の肺が広がらず分泌物も溜まります。2は「とりあえず寝かせる」という、いちばん自然に手が出る誤答です。
ここがポイント:この原則には例外が1つあります。片側の肺出血や肺膿瘍では、患側を下にします——血や膿が健康なほうの肺に流れ込むのを防ぐためで、こちらは酸素化ではなく汚染を防ぐのが目的です。「良い肺を下に」は酸素化の話、「悪い肺を下に」は汚染の話と、目的で分けて覚えます。
出典:NCLEX BANK / 成人看護 🫁 Respiratory #1 Q7
・片側の肺出血・肺膿瘍——患側を下に(健側を汚さない)
・呼吸困難全般、肺水腫——坐位。COPD なら前かがみで肘をつくtripod position(三脚位)
・胸腔ドレーンの排液ボトル——常に胸より低く。持ち上げると排液が胸へ戻ります
体位の問題は、「何のためにその向きにするのか」を1つ決めれば選べます。酸素を渡すためか、汚染を防ぐためか、横隔膜を下げるためか。
まとめ
呼吸器でやることは、3つだけです。
- どちらの話かを先に決める — 空気が入っていないのか、酸素が渡っていないのか。入っていない側では二酸化炭素が先に動き、渡っていない側では酸素が先に動く
- 静かになった患者を、良くなったと読まない — 喘鳴の消失、呼吸数が正常に戻る、PaCO₂ が正常域に上がる。喘息発作中に「正常に近づく数字」は、ほぼ全部が悪化の合図
- SpO₂ を目標にしていい場面かどうかを確かめる — 一酸化炭素中毒では偽性に正常を示す。数字ではなく病態を見て酸素を流す
そして体位です。下にした肺に血が集まる——この一文から、片側性肺炎で健側を下にする理由も、肺出血で患側を下にする理由も、両方引き出せます。呼吸器の問題で「どの体位を」と聞かれたら、何を目的にした向きなのかを先に決めてから選びます。
よくある質問
NCLEXの呼吸器の問題は、どう解けばいいですか?
まず「空気が入っていないのか、酸素が渡っていないのか」を決めてから読みます。肺の仕事は、空気を出し入れすること(換気)と、その空気から酸素を血に渡すこと(ガス交換)の2つだけです。喘息、COPD、窒息、気胸は前者が壊れていて、見るべき数字はPaCO₂です。出せないので溜まり、pHは下がります。肺炎、肺水腫、肺塞栓は後者が壊れていて、見るべき数字はPaO₂です。この仕分けができると、同じ「呼吸が苦しい」という訴えに対して、気管支拡張薬を選ぶのか、酸素を選ぶのか、体位を変えるのかが決まります。覚えておく基準値は3つで足ります。pH 7.35〜7.45、PaO₂ 80〜100 mm Hg、PaCO₂ 35〜45 mm Hgです。
喘息で喘鳴が消えたら、良くなったのですか?
逆のことが多く、NCLEXではほぼ必ず悪化として扱われます。喘鳴は、狭くなった気道を空気が通るときに鳴る音です。つまり音が鳴っているあいだは、空気が動いています。その音が消えたということは、気管支が広がったか、鳴らせるだけの空気が動かなくなったかのどちらかで、状態が急速に悪化している患者では後者です。これをsilent chest(無音胸郭)と呼びます。同じ理由で、発作中に呼吸数が正常に戻ってくること、PaCO₂が正常域まで上がってくることも危険な合図です。発作の初期は速く浅く吐き続けるためPaCO₂は下がり、pHはむしろアルカローシスに傾きます。疲れてそれが続けられなくなったときに、数字が正常に近づき、そのまま超えていきます。一語ずつしか話せない、座ったまま動かない、眠そうになる、といった様子も同じ方向を指しています。
パルスオキシメーターの値は、いつ当てにならないのですか?
試験で最も問われるのは一酸化炭素中毒です。一酸化炭素は酸素の約200倍の強さでヘモグロビンに結合しますが、パルスオキシメーターは結合しているものが酸素か一酸化炭素かを見分けません。そのため火災現場から運ばれた患者でSpO₂ 95%といった正常値が出ますが、組織に酸素は届いていません。この場合はSpO₂を目標にせず、非再呼吸マスクで100%酸素を15 L/分で投与します。ほかに値が当てにならないのは、末梢が冷たいときや血圧が低いとき、濃いマニキュアや人工爪があるとき、体動やふるえがあるとき、そして重度の貧血のときです。貧血の場合、飽和度は割合を示しているだけなので、100%でも運べる酸素の総量は足りていません。
この3問も、実際に収録している問題です
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